【メッセージ】
アイドルグループ「櫻坂46」1stシングル『Nobody’s Fault』収録の楽曲『なぜ恋をして来なかったんだろう?』MV(公式YouTube公開中)には、メンバー達がセンターの身体に白紐を巻き付け、一斉に取り囲む振付が登場します。センターが白紐を振り解き、一転メンバー達を従えつつ晴々と歌い踊るに至る展開は、YouTubeコメントなどにも散見される通り、社会の抑圧に勝利した個人の自我の表現と解釈し得ます。同時に日本芸能史を踏まえつつ、この振付を見れば、先行の興味深い事例に想到します。例えば、大正期・昭和期に人気を得た劇団「新国劇」の財産演目『極付国定忠治』の殺陣(刀剣などの格闘の振付)です。江戸後期、北関東の侠客・国定忠治と乾分達が困窮した農民を救うため、悪政を敷く役人を斬り倒した結果、官憲に追跡され、捕縛されるに至る過程を焦点化した本作は、まさに社会の抑圧への敗北の物語ですが、大詰の場面には、乾分の一人が捕縄に絡め取られ、身体の自由を失う殺陣が登場します。新国劇に触発された剣劇映画や昭和期に人気を得た「女剣劇」などにも同様の殺陣を確認し得ます。この通り、過去との真摯な対話は現在への新鮮な視点を私達に提供します。無論、櫻坂46と新国劇や「女剣劇」を学術的に比較するには、各々を取り巻く歴史的状況の調査など、気の遠くなるような手続が不可欠ですが、講義や演習を通じ、現在を(未来も?)見る目を高め合えれば幸甚です。