メッセージ
古代(上代~中古)文学のなかでも、特に古い時代の文学――主に、『古事記』『日本書紀』『風土記』などの研究をしています。現在、『古事記』や『日本書紀』は「歴史書」、『風土記』は「地誌」に分類されますが、その内容には、神話や伝説などの文学性豊かな話が多く含まれていることから、文学研究の対象ともなります。
これらの文献を読み解くには、当然のことながら、内容をしっかり理解する態度が必要となります。神話や伝説を伝える文献には、それを伝えようとする述作者の、ことばへのこだわり、すなわち、独自の表現が、それぞれに存するからです。
そしてもう一方で、神話や伝説は、古代の人々の生活の実態や思想を多分に反映しているために、考古学や民俗学の視点を取り入れて、研究を進める必要があります。
ここ熊本には、たくさんの古代の遺跡が残っています。その中には、江田船山古墳(現 和水町)に代表されるように、古代の人々の生活や思想を、生々しく伝える遺物が現存します。そうした古代の人々の生活の痕跡に触れ、そうして生きた人々が、どのような思考をもって、神話や伝説を記したのかを考えます。1300年以上も前のことですので、その過程を考えるのは、大変な困難が伴いますが、とても楽しい作業です。 日本人は、神話や伝説の時代を経て、仮名という独自の表記法を手に入れることにより、さらなる想像力と発想力を展開させて、物語や日記といった、奥深く幅広い世界を花開かせます。もちろん、そこに至るまでには、和歌の発展との影響関係についても外すことはできません。授業では、そうした文学史の視点を持ちつつ、上代から中古の文学を扱います。ぜひ、さまざまな物に触れながら、古代の文学世界を堪能しましょう。