メッセージ
私は「蘭学」という今や絶滅危機にある分野を研究しています。平たく言えば、オランダを通じてもたらされた西洋の学術・技術を、江戸時代(近世)の日本がどのように吸収し、理解し、変容・展開させたのか、という研究分野です。ですので、日本のくずし字を解読する一方で、古いオランダ語も読解します。
自然科学と同様に人文科学も私たちにとって必要な知識です。 というのはモノを作るわけではないものの、人文科学は人間の社会や精神の基盤を形成する上で重要な知見であるからです。 また、学問に対する理解は各自それぞれだと思いますが、 私は学問を一つの<政治>と捉えています。 特に歴史は人々の世界観、自己像、他者像といった アイデンティティに関わる部分の形成に大きく影響を与える知識です。
もちろん私が歴史学自体の面白さと魅力に憑かれていることはここで言うまでもありませんが、 多様な<豊かさ>の再発見、アイデンティティの再編、 そして歴史学が<差別>を根絶し、明るい未来を構築する力となることを信じています。
その他、社会活動として、戦争や紛争で傷ついた世界中の子どもたちを 医療援助しているFriedensdorf International in Deutschland(ドイツ国際平和村)を、 「登録サポーター」として微力ながら支援しています。 この組織は1967年7月ドイツ市民によって設立され、 医療関係者や ドイツ国籍者をはじめとしたボランティアの援助や、 支援金およびその他の寄付行為によってその活動が維持されています。
【リンク:Friedensdorf International in Deutschland/ドイツ国際平和村】
また、カースト制度により貧困・不就学の状況にある子どもたちを就学支援しています。
まず「知る」ことが大事です。しかし、「知る」だけでは足りません。 「知る」にとどまらず「アクションする」ことはさらに大事です。 今を知り、そしてアクションする「歴史学」を一緒に学んでいきましょう。
学生との調査
・熊本博物館での和本調査
・菊池市中央図書館での和本・古文書調査(夏季・冬季休暇などに開催。和本・古文書の整理。希望する学生は年1回発行するニューズレターに「資料紹介」を執筆)
自主ゼミ
・和本書誌学・古文書読解(週1回。くずし字と史資料の性質についての授業)
・書評ゼミ(週1回。選書した本を対象に参加者全員で議論し、書評を作る)
最近の仕事
・『「鎖国」という言説―ケンペル著・志筑忠雄訳『鎖国論』の受容史―』(ミネルヴァ書房、2009年1月)
→「鎖国」を言説(実態と乖離した人々の頭の中で作られたイメージで、ある共同体において共有されるもの)として捉え、その形成史を検討しました。
・『熊本洋学校(1871-1876)旧蔵書の書誌と伝来』(花書院、2012年11月)
→熊本県立大学に所蔵される熊本洋学校の教科書の書誌を明らかにし、その蔵書経緯を解明しました。
・『細川侯五代逸話集―幽斎・忠興・綱利・光尚・綱利―』(熊日新書、2018年1月)
→近世後期に編纂された熊本藩主細川家の逸話集「随聞録」を題材として、原文に注釈と解説を付し、現代語訳を行いました。
・『菊池市生涯学習センター蔵和漢籍分類目録』(菊池市教育委員会、2018年3月)
→菊池市の旧中央公民館図書室に眠っていた1,000冊余りの古典籍を整理、目録化しました。
・『菊池市石淵家蔵地球儀の総合的研究―構造・造形技法・世界図―』(菊池市教育委員会、2022年3月)
→熊本県菊池市の民家で発見した幕末頃製の地球儀について、X線CTスキャナを駆使してその構造と造形技法について解明するとともに、地球儀球面上に貼られた世界図の基図を同定しました。
・『蘭学の九州』(弦書房、2022年5月)
→「江戸初期、蘭学(オランダ語を介して西洋の知識・技術を学ぶこと)は長崎・出島のオランダ通詞たちによって始められていました。杉田玄白の『解体新書』(1774)より100年近く前のことです。蘭学は、東洋の文化を見直す契機となったのか、あるいは、西洋文化を至上とするオリエンタリズムに偏重していく近代化の基礎となったのでしょうか。
本書では〈九州〉が蘭学を発展させる重要拠点だったことをふまえて、その成立の時期や定義、学術的内容、時代背景等を、蘭学研究の第一人者が明快に解説しています。」(弦書房HP: https://genshobo.com/archives/11373 より)。