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令和7 年度熊本県立大学特別講座「江戸の文化を見る、知る、読む――南畝・ケンペル・蔦重とその時代――」第3 回「蔦屋重三郎の戯作出版」を実施しました

 本学文学部は、江戸時代の文学・文化の魅力や特色の紹介を趣旨として、3名の専門家を講師とする公開講座を企画し、去る12月20日(土)にその第 3 回目を開催致しました。これまでで最多の 81名の参加者があり、13名の本学学生以外は、初回・第2回同様幅広い年齢層の方々にお集まりいただきました。

 講師は中央大学文学部国文学専攻の鈴木俊幸教授。近世文学を専攻され、特に後期の小説(戯作)・狂歌、そして、それら文芸の器としての書籍の出版・流通システムなど、幅広い分野で多くの業績をお持ちです。先ごろ放映が終了した NHK 大河ドラマ「べらぼう」(鈴木先生は監修者のお一人)の主人公でありました、江戸時代中後期に出版を生業とした蔦屋重三郎の出版活動と、同時代文芸との関わりなどについて、「蔦屋重三郎の戯作出版」と題してお話しいただきました。

 講演では、江戸の公認遊廓新吉原に誕生した蔦重が、吉原細見の改め・卸しから出発し、その後出版に転じて吉原文化の広告塔としての役割を果たしつつ、当時一流の戯作者や狂歌師、絵師と提携して、時代を先導する出版物を手がけて、江戸文化の敏腕プロデューサーのごとき活躍を見せてゆくさまを、その出版物の画像を例示してたどられました。

 特に、当時の出版事情に精通されていることもあり、洒落本・黄表紙などの戯作と称される通俗的読み物類が、意外にも売り物としては想定されておらず、あくまで武家作者(朋誠堂喜三二も恋川春町もそれなりに高位の武士)による趣味であって、現代のように「読者」を意識して著されたものではないという指摘は、一般的な文学史では抜け落ちた視点で、参加者に強い印象を残しました。

 また、その背景として、近世中期の武家社会における徹底した世襲制があり、学才があってもそれを活かす場の無い状況が、一部の武士たちに文芸の世界でその鬱憤を晴らすことになったと解説されました。

 さらに、上記のような戯作全盛は、田沼意次の経済重視の政治が江戸の好景気を呼び込んだことの反映であり、長くは続かず、彼の失脚の後登場する松平定信が登場して綱紀粛正が行われると、一転して不景気となり、それは贅沢を身上とする吉原にも打撃を与え、蔦重も方針転換を図ったことが説明され、その商才の確かさ、機を見るに敏な姿が彷彿とされました。

 最後に、寛政の改革を経て文壇から退場した武家作者にかわって町人作者が活躍しますが、その中心であった山東京伝もまた、いち早く蔦屋重三郎によって丸抱えにされて、その出版活動を支える存在としてゆく様子を、その著作を中心に説明されました。

 講演後は出席者からの質問にも懇切にお答えいただきました。大河ドラマの監修者に直接質問できる貴重な機会ということもあってか、蔦重の出身地であり、講演の中心的話題であった吉原についての質疑を中心にして、最終回もまた盛況の内に閉会致しました。